BirthControl―女達の戦い―
譲の声に反応して、泣き腫らした顔をこちらに向けると、女は驚いたように目を見開いた。


「麻生……」


女の表情と呟いた名前で、予想は確信に変わる。

「やはり、あの時の女か……

とんでもないことをしてくれたもんだな?」


そう言って自嘲気味に笑うと、女は憎しみの籠った目で譲を睨み付けた。


「青柳は、お前がやったのか?

それともその腕の中の娘がやったのか?」


譲がそう問いただすと、女は一瞬自分の抱いている娘を見て、その存在を思い出したかのように顔を歪ませる。


後ろの浴槽では高齢者らしき女性をお湯に沈めたまま、放心していた男がこちらを凝視している。


女もまた憐れむようにこちらを向くと何か言いたげな表情を見せた。


「麻生……大臣か……?」


浴槽の男がしゃがれた声でそう言葉を絞り出す。


譲は皮肉めいた口調で、口の端を上げながら答えた。


「そうだ

まあ……この一件で大臣じゃなくなるのは確実だがな?」


譲はもう覚悟を決めていた。


ここまで日本の未来のために走り続けてきたけれど、順調だったのは最初だけで、今は決してそうとは言えない。


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