BirthControl―女達の戦い―
気が狂いそうだった。


遥香をOldHomeに入れた時、もう自分に娘はいなくなったんだと諦めたはずだった。


けれど自分の傍にはいなくても、どこかで生きていてくれると思えば悲しくも寂しくもなかった。


青柳に娘の様子を聞くたびに、少しだけ繋がっている気がして安堵したのは、そこに遥香がいると存在を感じられたからだ。


けれど今は……遥香はここにいるのに、存在を感じられない。


抱き締めているのに娘はもういなくなってしまった。


会えなくても生きていてくれることが、自分の願いだったんだと気付いた時には、もう手遅れだなんて……


夏木が女を立たせ、後ろにいる初老の男にも付いてくるよう促した。


浴槽に浸かっている高齢者らしき女の肌には少しだけ赤みが差してきている。


夏木は彼女を浴槽から抱き上げ、女と男を連れて風呂場から出ていった。


女は遥香を取り戻そうと暴れたが、初老の男がそれを羽交い締めにして、宥めるように一緒に出ていった。


もしかしたら、父娘水入らずにしてくれたのかもしれない。


こんな悲しい再会があるだろうか?


それでも譲は夏木と初老の男に、娘と過ごす最後の時間を与えてくれたことを深く感謝した。


< 281 / 406 >

この作品をシェア

pagetop