BirthControl―女達の戦い―
彼女から貰った命を、大事に大事に育むように……


本当は老い先短い自分が彼女を庇いたかったのだと、父は静かに涙を流した。


彼女の境遇を聞かされた時……


あまりの自分との違いに恥ずかしくなった。


彼女は短い人生を、この国のために、高齢者のために、子供を産めない女性たちのために、捧げたんだと……しのぶは思った。


(私はいったい何をやってるんだろう?)


10も離れた歳をして、国どころか夫のことも信じられないで実家に逃げてるなんて……


百合子のことを知ったのもこのころだったと思う。


結婚してもうすぐ三年になるというのに、子供に恵まれず、今年が終われば離婚しなければならなかったこと……


一人不妊治療をしながら、離婚にならないように必死で努力してきたこと……


夫が協力的ではなくなり、それどころか女を作って出ていってしまったこと……


帰る実家もなく、一人きりで夫を待つ百合子を見かねて父がこの家に連れてきたこと……


いつも元気で働き者の百合子からは想像できない境遇に、しのぶは心底驚いた。


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