BirthControl―女達の戦い―
紅茶を飲みながら、昔のことを思い出していたしのぶは、ハッとして時計を見た。


(いけない、もうこんな時間……)


慌ててカップをキッチンに持っていき、仕事に出かける準備をする。


病院での看護助手の仕事は雑用がほとんどだけど、やりがいがあった。


子供たちがもう少し大きくなったら、しのぶは看護学校に通うつもりだった。


母のような誰からも信頼される看護師になりたいと思ったのは、あの事件で久枝を救う現場を目の当たりにしたせいかもしれない。


それに……父と母を見ていて、あんな夫婦になれたらと思うようになった。


どんなことがあっても揺るぎない信頼関係があの二人にはあるんだと、まざまざと見せつけられた気がしたから。


夫はしのぶに、帰ってきてくれてありがとうと泣きながら言ってくれた。


しのぶも夫にありがとうと伝えることが出来た。


待っててくれてありがとうと……


玄関に飾られた家族の写真を見て、自分は今幸せなんだと実感する。


「行ってきます」


写真の中の夫と子供たちにそう言うと、しのぶは急いで玄関を後にした。
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