BirthControl―女達の戦い―
(何……言ってんの?

なんで私がお別れしなくちゃ救われないのよ……

救われないのは勝手に死んでいったお父さんじゃない……)


泣いている母をぼんやりと見つめながら、この人はそんなことを言いにここに来たんだろうかと礼子は思う。


「悪いけど……

帰ってくれる?」


母の言葉には何の反応もせずにそれだけ言うと、礼子は店の奥に向かった。


背中越しに母の、待ってるから、という声が聞こえたけれど、礼子は何も答えずにその場を後にした。


そして今、礼子はここにいる。


きちんと喪服を着て、傘をさしながらマンションの前に佇むと、少しだけ懐かしさを感じた。


ここで……あんなことがある前までは、礼子は両親に愛されてなに不自由なく育った。


天秤にかけたってあの二人がしたことを許す気にはなれないけど、それでも19歳までの時間も事実だ。


大きく息を吸い込むと、よし!と気合いを入れて、マンションの中に入っていく。


エレベーターに乗ると、懐かしさはもっと礼子を襲った。


実家のある階に到着して、廊下を歩く。


コツコツとヒールの音が響き渡り、それがやけに耳についた。


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