BirthControl―女達の戦い―
冷静に考えれば、あの子にひどいことをしてるのは、頭のどこかでわかっていた。


けれど、自分も妻も当時は自分達のことしか考えられなかったのだ。


文雄の会社は本当に業績が思わしくなかったし、妻の芳枝は体が丈夫でなかったため、もし倒産でもしようものなら、一家で路頭に迷うことになる。


それにもし生活が出来なくなったとしても、今の社会は何もしてくれない。


生活保護が廃止になったのをかわきりに、あらゆる保障制度が廃止となっていたからだ。


子供のいない世帯には何の保障もしない。


それが今の政治だった。


特に妻は体が弱くて働けないのは明確った。


自分は何をしてでも生きることが出来たかもしれないが、それでも今までとは明らかに違う環境に追いやられることは間違いない。


それに自分が扶養することが出来なくなれば、妻は強制的に施設に送られることになるかもしれなかった。


どうしてもそれだけは避けたくて、礼子が二十歳になるまであと一年となった時、文雄は決断したのだ。


例えそれが礼子を傷つけることになっても……


文雄達が礼子に恨まれることになったとしても……


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