BirthControl―女達の戦い―
芳枝を施設に連れていかれるよりはいいだろうと判断したのだ。


文雄の考えを芳枝に話した時、妻はさすがに困惑していた。


だけど突き付けられた現実に背に腹は変えられなかった。


文雄達は何度も何度も繰り返し話し合いながら、そうするしか生きる術はないんだという考えに囚われていった。


ついに菊地を礼子の部屋に導いた時、そこにはもう罪悪感よりも、妊娠してもらわなければ困るという義務感みたいなものしか残っていなかった。


本来なら一度だけの行為で、妊娠してくれるのがベストだと文雄も芳枝も思っていた。


なによりもやはり娘に何度もそういう行為をさせることがその時はまだ憚られたからだった。


けれど、そうはならない現実が文雄と芳枝を鬼の顔へと変化させていったのである。


一度そうさせてしまったことで、なぜか礼子への罪悪感は緩和されていき、逆になかなか妊娠しないことへの怒りの方が増していった。


最後には一人産むことで解放するつもりだったこの背徳の行為を、会社が完璧に倒産してしまったことで文雄に欲が出た。


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