BirthControl―女達の戦い―
「しのぶ、来てたのね?
いらっしゃい」
リビングのソファーでぼんやりしていると、後ろからそう声をかけられてしのぶは振り向いた。
「お母さん!びっくりした
仕事は?大丈夫なの?」
「今日はお父さん、施設に往診の日だから、お母さんも若い人に任せてサボっちゃった」
舌を出しながら、そう話す母は、65歳とは思えないほど若々しくおちゃめだ。
「ごめんね?急にみんなで押しかけちゃって……」
「何、言ってんの?
夏休みだから、孫を連れて遊びに来たんでしょ?
それでいいじゃない」
何があったのかなんて無粋なことを聞かない母が、今はとても有り難かった。
親の反対を押しきっての結婚だっただけに、こんな夫の醜態を話して心配させたくはなかったから。
「ありがと、お母さん」
涙は見せないようにそう言うと、母はにっこり笑いながら、ポンポンとしのぶの肩を叩く。
何もかもお見通しなんじゃないかと思うほど、母の手の温もりがしのぶの体を包み込んでいった。
その優しさに感謝しながら、夏が終わるまでには裕之を許せていればいいなと、心の中でしのぶはそっとそう思った。