BirthControl―女達の戦い―
そんな辛い思いを必死に隠しながら、さっきまで笑顔で気丈に振る舞っていたのかと哲朗は胸が痛んだ。


だけど、このままじゃ百合子のためにもよくないことは確かだ。


「百合ちゃん、辛いのはわかるけど、待ってても彼は帰ってくる確率は低い

だったら今すぐ団地を出て、実家に帰ることは出来ないのかい?

一人でそんなとこに何ヵ月もいるなんて、辛すぎるだろう?」


可哀想だけど、もう彼は帰ってこないんだってことを、きちんと理解させる必要があった。


実家に身を寄せることが出来るなら、その方がいいに決まってる。


しかし、百合子の顔はますます曇っていくばかりで、途方に暮れたように首を横に振った。


「うち、父はもう死んじゃってて……

母は子供を二人産んだ妹のところで今は暮らしてるんです

私まで妹の家にお世話になるわけにはいかないし……

どこにも行くところなんてなくて……」


哲朗は百合子の話を聞きながら、あることを思い付いていた。


だがこれは敬子に相談しなければ、自分一人で決められることじゃない。


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