BirthControl―女達の戦い―
丸山の前で泣いている百合子を見ながら、遥香は複雑な気持ちになっていた。
あの法律が出来てから、彼女のような辛い思いをしている人はきっと多いんだろう。
遥香は28歳になるまで、結婚はおろか出産もしたことはない。
それだけに子供が出来ない辛さとか、そのために夫とうまくいかなくなる惨めさなどは経験したことなかった。
上流世帯出身の遥香がこの施設で働くことになったのは、今から5年前――
政治家の父と母を持ち、何不自由なく幼少時代を過ごした遥香にとって、看護師になるという夢は受け入れてはもらえないものだった。
同じ政治家の父の秘書との縁談が決まっていたからだ。
それまで両親の言いつけを守らなかったことはなかったし、父と母のいる与党の政策にも疑いをもつことはなかった。
けれど自分の夢はあっさり否定され、好きでもない10歳も離れた秘書との縁談は高校生だった遥香には受け入れがたいものだった。