中華明星
その頃・・・。

ニューヨーク。
サタン崇拝者達の集団がいた。
街角の一つの一角のビル。
そのビルに、サタン崇拝者達は集まっていた。
イルミナティの集団だった。
中に、そのサタン崇拝者の集団を取り仕切る魔術師らしき男がいて、その男がタロットカードで占断をしていた…。

『ルシフェル様、…おお、ルシフェル様の声が聞こえたぞ。』

魔術師は大声で叫んだ。

『ルシフェル様、あなたは今、どこにおられるのですか…?』

魔術師の問いかけに、一人の影のような存在が魔術師の前に現れた…。

『俺がどこにいようと、何をしようと自由なはずだ…。』

声は、魔術師に向かってそう告げた。

『あなた様は、今、一体どこにおられるのですか…?』

すると、魔術師の問いかけに、また声がした。

『シナだ。…私はシナに君臨している…。…シナ共産党を操り、世界を征服しようと企んでいるのさ…。』

そして、魔術師に再度、声がした…。

『俺の分身が、全てやってくれる…。俺の分身の名前を教えてやろう…。
俺の分身の名前は、黎明…。
黎明士官という男だ…。
奴を崇拝するがよい。
…奴こそ、明けの明星シャヘルの息子ヘレル。
…全世界を支配する、赤い竜だ…。』

そして、魔術師が、その声に向かって、首を傾けた。

『しかし、ルシフェル様、私ども、白人が、世界を征服するのではなかったのですか?
私ども白人こそが、世界を征服するにふさわしい人種だったのではなかったのですか?』

すると、再び、声が魔術師に向かって告げた。

『黄色人種が白人を崇拝する時代は、既に終わったのさ…。
これからは、シナ人を白人が崇拝する時代に移り変わって行くからな…。
そう、あの男、黎明士官が、…俺の言いたいことを全てやってくれる…。
赤き竜、聖書に書かれた、赤き竜とは、シナのことさ…。
急いで、シナ中を探し回り、黎明士官なる人物を探し出せ…。
そして、黎明士官を頭にした、サタン崇拝者のシナ共産党組織を作るがいい。
…私は、カール・マルクスなる男と契約を交わしたのだ。
カール・マルクスは、サタンに魂を売り渡した男だからな…。
その時、マルクスは、宗教なるモノを全て排除し、宗教がない思想を作り出した、が、奴はサタニストだった。
共産党は、私にとって、非常に都合が良い思想以外の何者でもない…。
邪魔者のカトリックも、仏教も、日本の神道も、全てが共産党の前では否定される…。

なんと心地の良いことか…!神の不在!キリストの不在!仏の不在!…世界中の全ての神仏の不在!
こんな心地の良い環境は、シナ以外の国には有り得ない!

私のシナよ、私の愛する祖国シナよ、…ああ、シナが世界を征服してくれたなら…!
これが私の願いだ。
だから、今すぐ黎明士官なる人物を探し出し、その人物を崇拝しろ。
くれぐれも大切に扱うようにな…。』

すると、それを言い終えた声は消えた。
魔術師は真剣な表情で、サタン崇拝者達に叫んだ。

『今すぐ、黎明士官をシナから探し出せ!』

その頃、黎明士官は、沖縄にいた。
黎明士官は、悪魔が言うような、非情な人間でも、とんでもない悪人でもなかった。
優しくて、部下達思いの、ただ、シナへの愛国のみに生きている普通のシナ共産党の軍人の男性だった。

『黎明士官、こんなところに、花が…。』

黎明士官は夕方、部下と共に浜辺に座っていた。
黎明士官の隣に座っていた部下が、道路を隔てた向こう側にある花を取りに行こうとして、立ち上がった。
すると、道路に車が走って来て、はねられそうになった部下は大声を上げた。
黎明士官は、その時、不思議な力を発揮した…。
黎明士官の手から赤い竜が出て、部下の身体を掴んで引き戻し、部下は無事で済んだのだ。
何故か車が3m位、部下のいた場所から引き戻されたのだ。

この怪奇現象に、部下は目を丸くした。

『私は、生まれた時から不思議な力を持っていてな…。
何よりも、お前を救い出すことが出来て良かったぜ…。
怪我はないか?大丈夫だったか?』

黎明士官の優しい声に、部下はしっかりと頷いた。

『はい、怪我はありませんでした。
黎明士官が助けて下さったのですね…。』

部下の言葉に、黎明士官は部下の方へと手を差し出した…。

『心配ないぜ。』

黎明士官の手を取った部下は、ゆっくりと立ち上がった…。

『黎明士官、あなたは本当に心の優しいお方ですが、実はあなたは神様なのではないですか…?
だから、私をこんな風に救って下さったのではないですか…?』

『良く、見抜いたな。…私はこれでもクリスチャンだ。
中国天主教愛国会のキリスト教徒さ。
イエス様の教えを信じるクリスチャンだから、人には優しく接するようにしているさ。
今回、お前を救い出すことができたのも、イエス様のお力だからな…?』

『黎明士官は、本当に良く出来た人柄のお方です…。』

『私は、日本をアメリカの属国から、解放するというシナ人としての使命のために動いている…。
そう、日本をアメリカの属国から解放し、自由にしてやらなければならないのさ。
…そのために、戦っているんだからな…。
アメリカは、日本に広島・長崎の原爆を落とし、その後も日本を占領し続けていて、とうとう日本をアメリカの州の一つにしてしまった…。
こんな行為は許されてはならない…。
我がシナこそは、正義だ…。
…私はシナの正義のために戦っている…。』

『そうです、私たちは、シナ共産党の正義のために戦っているのです。』

『まずは、沖縄だ、沖縄の琉球独立を果たし、琉球がシナの領土となったからには、次は、日本本土をアメリカの属国から解放しなければならない。
私たちの戦いは、ここで終わった訳ではないのさ…。』

『それを考えると、我が中国は、本当に素晴らしい国ですね…。
日本をアメリカから助け出すために戦っているのですから…。』

『アメリカの差金で、日本がアメリカの州の一つになった…。
そして、アメリカの悪党は、日本をすっかりと自分の国にしてしまうつもりだ…。
こんな悪は許されてはいけない…。
私たちが解放してやらなければ、日本民族は滅びる…。
そうなってからでは、遅いのさ…。』

黎明士官は、非常に整った目鼻立ちをした端正な顔つきの士官だった。
そして、たくさんの部下たちから慕われていた。

黎明士官が、日本のことについて語る時、それは、黎明士官なりに、真剣に日本について考えていたからだ。
けして、日本が嫌いだった訳でも日本を滅ぼそうと思っていた訳でもない。
黎明士官は、黎明士官なりの正義のものさしで『日本を救うため』に戦っていた。
勿論、日本人が旧日本軍の正当性を韓国に対して言うように、シナ人にも、シナ人の正義の理由のいい分があったということだ。
しかし、日本人から言わせると、そこがシナの恐ろしいところなのではないだろうか?

二人は、寄宿舎へと戻った。
寄宿舎へ戻ると、黎明士官は、自分の部屋で、一人、風水の竜に向かって祈り始めた。

『あれ?黎明士官、あなたはクリスチャンだったのではなかったのですか…?』

部下の問いかけに、黎明士官は、答えた。

『私は、風水師でもあるのさ。』

しばらくして、竜から不思議な力が現れた…。

『黎明士官!竜の目が、赤く光っています!』

しばらくして、竜の目が赤く光り出し、黎明士官に語りかけた…。

『黎明士官…。貴殿は、シナの皇帝の生まれ変わりで、特別な使命な持って生まれて来た存在だ…。』

竜は、黎明士官に語りかけた…。
勿論、その声は、部下には聞こえてはいない…。

しばらくして、竜の目は元通りになり、声も聞こえなくなった…。

『幻聴か…?なんかおかしな声が聞こえたぞ…。』

黎明士官の言葉に、部下は驚いて黎明士官の手を取って握った。

『何があっても、黎明士官をお守りします。』

その部下の言葉に、黎明士官は優しく笑った。

『ああ、大丈夫さ…。…さぁ、何か飲み物でも、飲みに行こう…。』

二人は、その場所を後にした…。
怪奇現象が起こっていても、人はそれを神だと思い込んでしまうこともあるのだから、要注意しなければならない。
しばらくして、部下が眠るために、寄宿舎に戻ると、黎明士官は、一人でカクテルを飲んでいた…。

すると、そこに、薄暗いところから、二つの目が黎明士官を見詰めていた…。

『見つけたぞ、黎明士官…。』

声は、黎明士官に向かって、そう告げた…。

『貴様は、何者だ…?』

ギョロっとした瞳から、大きな怪物が現れた、そして、その怪物は、黎明士官めがけて襲いかかって来た。
それは、トカゲのような姿をした、大きなサソリのような生き物だった。

『ああ、主イエスよ、お助け下さい!』

黎明士官は、十字架を握り締めながら、そのサソリから身を交わした。
しかし、サソリは黎明士官の身体全体を抑え込んでしまった。
黎明士官は気を失ってしまった。
すると、気を失った黎明士官の身体が大きな赤い竜に変わった。

そこにサタンが現れて、サソリを殺してしまった…。

『黎明士官…、お手並みを見せて貰いましたぞ、あなたが本物の黎明士官ですな…?』

サソリの死骸を見下ろしながら、一人の魔術師が黎明士官の目の前に現れた…。
目を覚ました黎明士官は、その魔術師を見上げ、目を両手でこすった…。
赤い竜に変わった黎明士官の身体は、元通りの黎明士官の姿に戻っていた。

『…あなたこそ、選ばれたルシフェル…。
私の神様です。』

その言葉に、黎明士官は戸惑いを隠せなかった…。

『…私が、ルシフェル…?
馬鹿馬鹿しい!クリスチャンの私に、そんな言葉をいうなど、私の正義に反する!』

すると、そう言い終えるか終わらないかの内に、黎明士官の右手のみが再び竜の手に変わった。

『黎明士官、その手が証拠です…。
あなたは人間ではないのですよ、あなたは人間ではなく、ルシフェルの化身なのです…。
今日から私たちイルミナティは、あなたを頭にした組織に生まれ変わります…。
あなたを崇拝するのです、黎明士官、あなたを…。』

『私を崇拝する…?一体どういう意味だ…?』

『黎明の子、明けの明星シャヘルの息子ヘレルよ…。』

『…私の黎明という名前は、クリスチャンの母が、聖母マリアの夜明けの星という意味から名付けた名前だ。
悪魔的な要素は一切ない!まして、私がルシフェルのはずがない!』

『あなたは、ルシフェルの分身なのです…。
自分で分からないだけ…。
私たちは、あなたを探し続けていたのです…。』

魔術師がそう言い終えると、黎明士官の手が元通りに戻った…。

『ああ、主、イエスよ、私を助けて下さい…。
私は、今迄、正義のために行動してきたつもりでした…。
それなのに、私は、ルシフェルの分身呼ばわりをされています…。
イエス様、どうか、私を助けて下さい…。
私は、正義のために生きて来たのではなかったのですか…?』

黎明士官が今迄、正義だと信じ込んで生きてきたモノを、今更サタンだと思うことは、絶対に有り得ないことだった…。
きっと、これからも、黎明士官は、自分を正義だと思い込んで生きて行くのだろう…。
黎明士官の瞳から、涙がこぼれ落ちた…。
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