西澤さんと文子さん

帰宅ラッシュとぶつかり、すし詰めの車内。西澤は左手で文子を抱きしめ、右手で吊り輪を持つ。視線を下に向けると、離れないように必死な文子が視界に入る。西澤の鼓動がさらに高まっていく・・・


ガタン・・・


「きゃっ!」


電車が急停車。
その衝動で、文子の体がぐらつく。西澤は、しっかり抱きしめ、胸元に文子を押さえつけた。


「だ、大丈夫ですか?」
「だ・・・大丈夫です。」


照れながらも、お互いの顔を見合す2人。そして、クスッっと笑うと電車は何事もなく動きだした。


電車を降りて、人を掻き分けながらさらに進んでいく。
文子は、ワクワクする気持ちとドキドキする不安が入り混じった気持ちで、西澤とつながっている左手をしっかり握り返した。


(どこに行くんだろう・・・どこに向かっているんだろう・・・)


そんな文子の気持ちに気づかないまま突き進む西澤の中で、鴨居の言葉がリピートされる。


“カクゴキメロヤ。”
“イマ、フミコチャンヲテバナスト、オマエニドトシアワセニナレナイゾ”


この言葉が何度も、何度も繰り返される・・・


(伝えよう。今日、伝えよう。文子さんに絶対!)



そう自分に言い聞かせながら・・・。
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