西澤さんと文子さん
「亮太~!この前のお見合いのことなんだけど・・・。」
一睡も出来なかった西澤には、母親の声はほとんど聴こえていなかった。眼の下には黒いくまができ、気分も上の空状態。そんな状態の中で、西澤は“どうして文子のことを思い出してしまうのか”ということを考えていた。
「亮太~!ねぇ聞いてるの?」
(何で・・・わかんねぇ・・・安西さんが・・・俺を支配する感じが・・・何で・・・)
「亮太~!!大事な話なの!部屋から出てきなさい!」
(何でだ・・・何で・・・)
「亮太~!」
(どうして・・・忘れられないんだろ・・・)
「文子ちゃんにまだお返事、返してないんでしょ?どうするの~?」
カキカキ・・・
“直接返事伝えるから、安西さんの連絡先教えてくれ。”
「・・・亮太・・・。」
母親は泣きそうになるのを抑えながら「わかった。木下さんに確認しないとわからないからちょっと待ってて!」と言って、西澤の部屋の前から去っていった。