西澤さんと文子さん
沢山の本が棚に並び、レコードの雑音が混じった音楽が流れる店内。大正時代のモダンな雰囲気がその場所に広がっていた。
「いらっしゃいませ。」
「あ…あの…」
文子が店員に西澤のことを尋ねようとした時だった。
「安西様ですね。お待ちしておりました。」
店員からそのような言葉が飛び出し、文子は驚いた。店員は何も気にすることなく、文子を席まで案内する。
「こちらでございます。」
そこには、縁のない眼鏡をかけ、真剣な目で本を読む西澤の姿。文子は、西澤の違う姿を見た様な気分になり、ドキッとした胸の高まりを実感する。