【超短編】傘とアリガトウ




この人は…この人といると、
「暖かい、んだ。」

ボソッと先輩に聞こえない程、小さな小さな声で呟いた。

なのに、
「おまっ、ちょっ!おかしいんじゃね?
…こんな雨の日に暖かいとか。」

「わぉ。先輩、耳良いんだ。」

「…ったりめーだろ。お前の声、1ミリも聞き逃さねぇようにしてんだから。」

‐え…ちょっと、嬉しかったり。

口周りの筋肉が制御不能に陥ったようで、慌てて口元に服の袖を宛がった。
ちょっと咽たかのように見せる為、少し咳なんかもして。
自分が動揺していることを、悟られないように…。


「風邪引いてんじゃねーの。さっきから暖かいとか言うし。」

「全然、大丈夫。風邪なんか引いてない。」

「嘘。顔赤いし、熱でもあるの?」

「もともと体温高い体質なだけ。」

「じゃあ、さっきの暖かいって…。」


あぁもう。面倒くさい。
質問攻めに遭うって、ほんと嫌だ。

「それはっ…、先輩が暖かい人だな、って思ったから。つい、口が滑っただけだ!!」

嗚呼、言ってしまった。
随分と恥ずかしい言葉を、口走ったな。

「……っ。」
先輩、震えてる!?



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