【超短編】傘とアリガトウ
「おーい、せん「よかったー…っ。もうさ、心配過ぎてどうにかなりそうだった。……」
うーん正直に喜んでも良いものか。
だから、とりあえず
「あんたに心配されんのは、今日、2回目だな。」
これだけ、言っておいた。
「ったく、素直じゃないなー。」
そこは嬉しいとかだろ、と愚痴をこぼす先輩を軽く小突きながら、雨空を見上げる。
まだ、雨は降っていて、心なしか、先程よりも雨脚が強くなった気がする。
自分の胸の内と反比例して、どんどん悪化する天気。
でも、外がどんなに寒くなろうと、
この傘の中は、先輩の隣は、暖かい。
不思議なものだ。
人が暖かいなど、ありえないと思っていたのに。
先程までの捻くれた自分は一体、何処へ行ったのやら。
「…着いた、家。」
先に目的地へ到着したのは、自分だった。
先輩は、
「今度から、雨の日はぜってー傘忘れろよ。」
なんて事言ってたけれど、言われなくても、忘れたと思う。
もう一度、なんて淡い期待を抱きながら、昇降口に佇む自分の姿を思い浮かべ、思わず苦笑してしまった。
玄関の戸を閉め、靴を脱いで部屋へ上がる。