【超短編】傘とアリガトウ




まず目に入るのは、家族からの手紙の山。
すべて、自分の帰りを今か今かと待ち望んでいる、などという事が書いてある。

「今日で仕舞いだったな。そういえば。」
そう、呟くと同時に、涙が。
‐何故?


今日で仕舞い。嬉しいことではないか。

ニンゲンの調査などという、面倒な仕事から、解放されるのだ。
これほど、待ち望んでいた日は他に無いだろうに…、何故、こんなにも喪失感に襲われているんだ、自分は。

「ックソォ…んでだよ。なんで、こんなに悲しいんだ…!」

悲しみなどという感情は、感じたことが無い。
思わず、近くの壁に拳を叩き付けた。

傷口となったそこからは、真っ赤な血ではなく、
いくつもの歯車、電気コード…、
一瞬白く光ったのは、流れていた、電気。

「…ッハハ。」
痛みを感じない身体は、どれだけ壊しても、
意味が無い。
それならば、このまま、壊れてしまえばいい。そうすれば…。



我ながら、安直な考えだったなと後悔する。

一部を破壊したところで、
緊急エラー発生の合図、甲高い電子が鳴り響く。

「…ッチ。失敗か。」

こうなれば、すぐに向こうの事務局員が飛んでくるらしい。


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