僕の身長で愛を測らないで下さい。
廊下をとぼとぼ歩きながら、今日は部活行こうと思ってたのにな、とぼんやり考えた。
いいや、明日は行こう。
日没の時間はだんだん早くなってきてるけど、今はまだ明るい。
文化部の女の子たちのはしゃぐ声が開きっぱなしの扉からもれてくる。
「ミミ子。」
後ろから呼ばれて、わたしは機械的に振り返った。
「どうしたのっ」
そこには、まばゆいばかりの美しい少女が心配そうにたたずんでいた。
「アユ芽ちゃん…帰ってなかったの。」
「ミミ子が山田に連れてかれたから、心配で。」
アユ芽ちゃんはわたしに近づくと、少しかがんで、わたしの顔を覗き込んだ。
「元気かい?」
「……」
アユ芽ちゃんはなんだかんだで、わたしよりずっと賢くて、勘なんかも鋭い。
だから、出会った頃から、辛い時や苦しいとき、何も言わなくても分かってくれるアユ芽ちゃんにいつも助けられた。
きっと今もそうだ。
らしくない青春な痛みを抱えているわたしのこと、何も言わなくたって、分かってくれる。
「ア、アユ芽ちゃん」
しくしくと泣き始めたわたしを、アユ芽ちゃんは優しく抱きしめた。
「よしよし、ミミ子はいい子ね。」
アユ芽ちゃんの白い手が、いたわるようにわたしの背中をさする。
『ミミ子ちゃん』
わたしは文化祭の日の、今のアユ芽ちゃんと同じようにわたしの背中をさすってくれたユウ太くんを思い出してはっとした。
優しいユウ太くん、山田の大切な子供。
ユウ太くんだって、きっと山田を取り戻したがってる。
ただ、大好きだから傷ついてるけど。
ユウ太くんはまだ、お父さんを取り戻せるんだ。
わたしのお母さんはわたしを捨てて、二度と取り戻せないところに一人で行っちゃったけど、ユウ太くんは、取り戻せる。
山田だって取り戻さなきゃいけないんだ。
優しさのために失ってしまったかけがえのないもの。
過ぎてしまった時間はどうしようもない。
山田を幸せにできるのは、戸波先生とユウ太くんなのだ。
「…わたしじゃない。」
「へ?」
わたしじゃない。
わたしではあり得ない。
でも、山田の心に、もっともっと留まっていたい。
もっと山田の特別な『教え子』になりたい。
「アユ芽ちゃん」
「ん?」
「もう、大丈夫みたい。」
わたしは顔をあげてにっこり微笑んだ。
ぴくっ
何故かアユ芽ちゃんの頬が引きつる。
「ミミ子?」
「なぁに。」
「完全犯罪を思いついたとかじゃないよね。」
「そんなわけないでしょう。」
わたしは再びにっこりした。
アユ芽ちゃんの頬が先刻より激しく痙攣をおこす。
「……ミミ子ならあり得るでしょうが。」
アユ芽ちゃんがほとんど聞き取れない声で呟いた。
いいや、明日は行こう。
日没の時間はだんだん早くなってきてるけど、今はまだ明るい。
文化部の女の子たちのはしゃぐ声が開きっぱなしの扉からもれてくる。
「ミミ子。」
後ろから呼ばれて、わたしは機械的に振り返った。
「どうしたのっ」
そこには、まばゆいばかりの美しい少女が心配そうにたたずんでいた。
「アユ芽ちゃん…帰ってなかったの。」
「ミミ子が山田に連れてかれたから、心配で。」
アユ芽ちゃんはわたしに近づくと、少しかがんで、わたしの顔を覗き込んだ。
「元気かい?」
「……」
アユ芽ちゃんはなんだかんだで、わたしよりずっと賢くて、勘なんかも鋭い。
だから、出会った頃から、辛い時や苦しいとき、何も言わなくても分かってくれるアユ芽ちゃんにいつも助けられた。
きっと今もそうだ。
らしくない青春な痛みを抱えているわたしのこと、何も言わなくたって、分かってくれる。
「ア、アユ芽ちゃん」
しくしくと泣き始めたわたしを、アユ芽ちゃんは優しく抱きしめた。
「よしよし、ミミ子はいい子ね。」
アユ芽ちゃんの白い手が、いたわるようにわたしの背中をさする。
『ミミ子ちゃん』
わたしは文化祭の日の、今のアユ芽ちゃんと同じようにわたしの背中をさすってくれたユウ太くんを思い出してはっとした。
優しいユウ太くん、山田の大切な子供。
ユウ太くんだって、きっと山田を取り戻したがってる。
ただ、大好きだから傷ついてるけど。
ユウ太くんはまだ、お父さんを取り戻せるんだ。
わたしのお母さんはわたしを捨てて、二度と取り戻せないところに一人で行っちゃったけど、ユウ太くんは、取り戻せる。
山田だって取り戻さなきゃいけないんだ。
優しさのために失ってしまったかけがえのないもの。
過ぎてしまった時間はどうしようもない。
山田を幸せにできるのは、戸波先生とユウ太くんなのだ。
「…わたしじゃない。」
「へ?」
わたしじゃない。
わたしではあり得ない。
でも、山田の心に、もっともっと留まっていたい。
もっと山田の特別な『教え子』になりたい。
「アユ芽ちゃん」
「ん?」
「もう、大丈夫みたい。」
わたしは顔をあげてにっこり微笑んだ。
ぴくっ
何故かアユ芽ちゃんの頬が引きつる。
「ミミ子?」
「なぁに。」
「完全犯罪を思いついたとかじゃないよね。」
「そんなわけないでしょう。」
わたしは再びにっこりした。
アユ芽ちゃんの頬が先刻より激しく痙攣をおこす。
「……ミミ子ならあり得るでしょうが。」
アユ芽ちゃんがほとんど聞き取れない声で呟いた。