僕の身長で愛を測らないで下さい。
山田のマヌケな雄叫びに、わたしたちはフリーズした。


……再婚してくれーーって。


せめて、


やり直そうっ


とか、


俺のそばにいてくれないか


とか、


もうちょっとかっこいい言い方あるじゃん。


再婚してくれーーって。


このセリフは実際に聞くと、字面よりかなりアホっぽい。


どストレートは称賛にあたいするけど。


毒気をぬかれてる外野をよそに、山田は睨みつけるように戸波先生を見つめていた。


戸波先生も、山田は静かに見つめ返す。


戸波先生がふっと笑った。


「いいわよ。」


シャーペン貸してくれないか


いいわよ


みたいな、らしくない軽いのりで、戸波先生はあっさり返事した。


「うそ……」


「やだ……」


我に返った山田ファンが信じられない、というようにつぶやきを漏らす。


でも、中には、やっぱりそうなんだ、みたいな感じでうんうんうなづいてる子もいた。


山田が戸波先生を見る目の熱に、気づいていた子は結構いたらしい。


まぁ、あれほどあからさまだったら気づくよなぁと、わたしはぼんやり思う。


「あのね、山田先生。」


戸波先生が心底楽しげににっこりした。


「浮気、してもいいわよ。」


「…はっ⁈」


山田が叫んだ。


わたしもこころの中で叫んだ。


つか、そこにいた人間みんな叫んでたと思う。


戸波先生は山田の反応にさらに嬉しそうに笑った。


「してもいいけど、したら、許さない。
ただし、今度は離婚はしない。」



「……」


戸波先生は口をパクパクしてる山田に近づくと、なんとも大胆なことに山田の胸に飛び込んだ。


数人の生徒がひいっと悲鳴を漏らす。


そして、戸波先生は小さく山田の耳に囁いた。


その声は小さすぎて、こちらには聞こえなくて、その場にいた全員が、歯がゆい思いをすることになった。


「一生、わたしとユウ太の下僕ね。」



この時の言葉は、その後、ユウ太くん経由で知った。


まぁ、山田の顔みてれば、なんて言われたかなんて、だいたい想像ついたけど。
< 134 / 153 >

この作品をシェア

pagetop