僕の身長で愛を測らないで下さい。
正門から一番遠い棟の二階に、それは存在していた。


外のざわめきが微かに聞こえる。




密やかに笑い声をあげる人たちが恐怖の館の前に列をつくっている。


長くもなければ、哀れなほど短くもない列の最後尾に、俺とヒロ人はちょこんと尾いた。


「お化け屋敷とかもするんだね、なんか意外かも。」


俺は前の人にならって小さな声でヒロ人に話しかけた。


「お化け屋敷じゃないかもしれない。」


「え、そうなの?」


「この教室の中からは、もっと現実的で恐ろしいモノの気配がする。」


「……あ、そうですか。」


俺はヒロ人の言葉を受け流すことができず、黒く塗りつぶされたガラスに耳を押し当てた。


やっぱり防音ガラスなのだろう、何も聴こえない。


俺はとりあえずほっと息をついた。


きゃあぁああああああ


うん、何も聞こえない。


ぎゃあぁああああああ


……何も聞こえない。


ごぎゅぁああああああ


………


「帰る!ヒロ人、俺やっぱり帰る‼」


「うん?どうした、ユウ太。」


「きゃあって、ぎゃあって、ごぎゅぁあって」


涙目の俺に、ヒロ人は無情に言葉を返した。


「あー、大丈夫大丈夫。人間の声だよ。」

「ちがう!あれは妖怪だ。」



「いらっしゃいませ。あの、大丈夫ですか?」


そうこうしているうちに列の先頭まで来てしまっていた。


受付の女の子が不思議そうに俺を見ている。


……引けなくなってしまった。


「お一人様100円になります。」


文化祭の出し物として高いのか安いのか微妙な金を払った。


手がふるえる。


受付の女の子がかわいい笑顔を浮かべた。

ウェーブのかかった長い髪が、肩の上で揺れる。


瞳がサディスティックに光ったように見えたのは、俺の気のせいだろうか。


「いってらっしゃいませ。」



女の子の笑顔に見送られ、俺とヒロ人は恐怖の館に足を踏み入れた。












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