僕の身長で愛を測らないで下さい。
教室の中は暗くて、いろいろなモノがごみごみと置いてあった。


「ヒッ」


靴の裏にむにょっとした何かを感じて俺は飛び上がった。


「何これ?」


目を凝らすと、それは黄緑色をしたスライムだった。


「ト、トラップってやつかな。」


ドキドキとした胸をおさえつつ、俺は平然としているヒロ人の横にへばりついた。


宇宙人もこういう時には役に立つ。



ものをよけながら進んで行くと、そこには校舎の美しい外観を裏切る薄汚れた灰色の壁が待ち構えていた。


「ヒロ人ぉ」


「うん?」


「この壁、顔が生えてるね。」


「生えてるんじゃなくて、はめ込まれてるんだろう。」


その壁にはチャックが付いていた。


着脱可能の壁らしい。


灰色の壁に埋め込まれているこの人も、お嬢様の1人何だろうか。



すごい。


たかが恐怖の館のために恥も外聞も捨てて壁と同化するのに、この人はどれほどの覚悟を要したのだろうか。


壁の顔の中で光る目がこっちをじろりと見た。


「頑張ってね。」


俺は心の底からエールを送った。


願わくば、来年はこの少女に壁以外の役割をお与えください。



気の毒でたまらなかったが、おかげで少し恐怖が和らいだ。



ぶり返さないうちにトンズラしようと、ヒロ人の方を向いたとき、


ぴとっ


何かが俺の足にしがみついてきた。


「お兄ちゃん」


女の子の声がした。甘えるような幼い声。


俺は下を向けなかった。


__________



『お兄ちゃん、恨んでも、いい?』


「い…」







イャぁあああああああ



「ユ、ユウ太、落ち着いて」


「ぐぇっ」


俺は猛然と出口に向かって走った。



足を振り上げたとき蛙が潰れるような音がしたが、知らん。



スライム地獄に足をとられ、ダンボールの中から伸びてきた腕に腕をとられ、幽霊らしき浴衣女子の集団に笑われ、ついでにカッパにも笑われながら、俺は外の光に満ちた出口へダイブした。





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