僕の身長で愛を測らないで下さい。
綿菓子とフランクフルトと唐揚げを買うと、俺たちは人混みから脱出するべく中庭へ向かうことにした。


パンフレットによると、中庭全体を野外休憩室にしてあるらしい。


「広いのに、人多いねぇ。」

俺はへばりながらも、綿菓子をぱくついきながら歩いていた。


「ホント…何が楽しいんだか。」


「……そういう盛り下がることをいうんじゃない。」

その時、ヒロ人が急に立ち止まった。

「うわぁ」

後ろを歩いていた人がヒロ人にぶつかる。

「ど、どうしたの、ヒロ人、邪魔だからいきなり立ち止まるなよ。」


俺を後ろにぺこりと頭を下げて、ヒロ人をすみに引っ張った。


「何なんだよ。恥ずかしいなぁ。」


「ユウ太、ユウ太のお父さんがいる。」


「へ?」


どくっと心臓が跳ね上がるのがわかった。

いることは分かってたけど、心の準備が出来ていない。


「どこにいるの?」


ごくりと喉をならして俺は尋ねた。


「ほら、あそこ、一人で歩いてる。」


「……見えん。」


いや、見えた。ほんとだ、一人で歩いてる。


文化祭を堪能している人ごみの中を歩いている、俺とは似ても似つかない人。


気がつかれるまでに逃げなければ。


俺はあせってヒロ人の袖を引っ張った。


「ユウ太っ」


びくっと背中が震える。


気づかれた⁈


去ろうとする俺を必死で呼び止める声。


振り返ると、一年ぶりに見る、大好きなお父さんの笑顔がそこにあった。


何事かと注目してくる無数の好奇の目にさらされながら、お父さんは俺に駆け寄る。

泣きそうなに顔を歪めて、ぎゅっと俺を抱きしめた。


「ユウ太」


小さな声でもう一度俺の名を呼ぶ。


心底愛おしそうに。


「パパ」


混乱していたせいで小さいころのように呼んでしまった。


「……お父さん」


じんわりと目頭が熱くなる。


俺たちのまわりだけ、やけに静かだった。
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