僕の身長で愛を測らないで下さい。
「ユウ太くん…」


かすれた女の子の声がして、俺は慌ててお父さんから体を離した。



「ミミ子ちゃん」


俺は目を丸くした。


そこには、どこか疲れた笑みを浮かべたミミ子ちゃんが立っていた。


ミミ子ちゃんは、知り合いだとは微塵も感じさせない冷たい視線を俺に向けた。


そして、視線と同じくらい冷たい口調で、お父さんに、


「何事ですか?」


と尋ねた。


生徒の問いに、お父さんは、


「息子なんだ。」


と照れたように微笑んだ。



ミミ子ちゃんの顔に皮肉がよぎる。


あつまっていた人々が興味を無くして、一人また一人と去って行く中で、俺はミミ子ちゃんにじっと視線を注いでいた。


今のミミ子ちゃんには何故か、この前やはじめて会った時のような、可愛らしくて不敵なきらめきがない。


疲れていて、悲しげで、それでいて今にも笑いだしそうだった。


ミミ子ちゃんはひたとお父さんを見据えて、笑みを歪ませた。


「息子さんがいらっしゃるとは知りませんでした。」


そのどこかあざ笑うような口調に俺は思わずむっとする。


「上松?」


お父さんも何か普通じゃないと思ったようで、俺から離れると、ミミ子ちゃんに近寄って、小さな肩に手をおいた。


「どうした?」


パシッ


俺は息をのんだ。


ミミ子ちゃんはお父さんの手をはねのけると数歩後ずさった。


ふわふわの髪が、マシュマロみたいな頬に浮かんだ表情を隠してしまう。


「ミミ子ちゃ……」


「事情はわかりませんが、わたしはお邪魔のようなので失礼します!」


俺の言葉をさえぎるようにまくし立てると、ミミ子ちゃんはだっと走り出した。


「上松‼」


お父さんが呼び止めても聞かず、あっと言う間に見えなくなってしまった。


ミミ子ちゃん……


目が潤んでたように見えたのは、俺の勘違いだろうか。
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