『さよなら』から始めよう



三十を過ぎ
喧嘩っ早くもないが
精神状態が不安定なまま
酒を喰らえば


手違いが起きても
否めないと高野は判断したようで
ジョッキではなく
瓶ビール二本に
早々と焼酎のボトルを注文する


どうやら自白する迄は
帰す気はないらしい


何処から噂が流れたのか
出所を探る猶予さえなく
飲め飲めと注がれるビールを
自白剤のように流し込み


若い頃は 老け顔だった高野は
威厳のある厳つい顔に
年相応の目尻に深く刻まれた
笑い皺が
妙に人間の丸さを醸し出し


意味なく可笑しくなった



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