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嫉妬

嫉妬するなんて見苦しい。

わかってはいるけど、頭と感情は別物で、頭でわかっていても、感情はついてきてはくれない。


「樹さん、酔っ払っています?」

一つ下の女の後輩が、頬を赤く染め、酔いに任せて樹の顔を触っている。


もうすぐで日付が変わる時間。
サークルの新入生歓迎会に、久しぶりにサークルの人たち全員が集まっていた。
みんな酔っ払って、きっと明日に記憶がある人は少ないんじゃないかって思えるほど、乱れていた。


私、近藤かおりは、理系大学3年。サークルは、ほとんど名ばかりの「音楽サークル」略して、「音サー」。

そして、一つ下の女の後輩に、顔を触らせているのは、
私と同年の同学科、山下樹、私の彼氏。



「そ・・・そうかな?」
焼酎片手に、照れ隠しで、空いたもう一つの手で髪を触る。


「そうですよー。3次会行きますよね?」
後輩と樹の距離はどんどんと近づき、もうキスできるんじゃないかって距離にまでなっていた。


嫉妬・・・
そう、きっと嫉妬している。

「かおりん、すごい顔してるよ」

声を掛けられて、我に返る。

いけない、まだ飲み会の場だった。


「なーにぃー?嫉妬?」

声を掛けてきたやつ、鶴神健太。私の一つ上。


眉間にしわを寄せていたらしい私の眉間を、必死で伸ばそうと努力してくれるが。

「やばい、かおりんの眉間のしわ、とれない。」


あきらめられた。


「違いますよ。ただ、あいつ酔っ払ってるから、帰ってきたときめんどくさそうだなぁーって思っただけです。」

「あー同棲してるんだっけ?」


さっきまで気持ち悪いって言ってたくせに、鶴神の手には、きちんと焼酎のグラスが握られている。


「んーどちらかというと、半同棲です。」


「かおりんさー、おれなんて彼女できないのかなー?」

人の話をはたしてこの人は聞いているのだろうか。
グラスに入った氷を、手でかき混ぜながら、目はうつろにさまよっている。

絶対、この人酔っ払っている。


「もてそうなのに、もったいないですよね。」

顔は小さくて、目もくりんとして大きく、鼻筋も唇も、すべて整えられた顔をしているのに、鶴神にはここ何年か彼女がいないらしい。


「リア充め~~~。」


「リア充ってなんですか?」


いけない質問をしたのか、鶴神は恨めしそうにこっちを見ると、鼻で笑い、焼酎を飲む。

「リア充が、リア充をしらんとか、嫌味か!」



酔っ払いは嫌いだ。
お酒を飲めない私からしたら、酔っ払いなんて、この世の生き物ではない。
何をしても、何を言っても許されると思っている。
そして、散々人に迷惑かけても、結局忘れているというんだから、迷惑なことこの上ない。


「3次会行く人ーーー!!!」


酔っ払いをとりあえず店の外に出すと、今回の幹事が叫ぶ。

酔っ払いが乱れているのをしり目に、その言葉を無視し、私は帰宅した。



きっと樹は、飲み会が続く限り、行くだろう。
あいつは、そういう奴だ。
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