voice
「もうすぐ、山下君誕生日じゃん、何あげるの?」
講義が終わり、お昼休みになって、麻美が聞いてくる。
彼氏ができると、彼氏の話ばかり聞かれる。
うんざりだ。
「んーご飯作ってあげれば十分でしょ。」
少し投げやりに答えると、
「山下君かわいそー。」と麻美が大袈裟に笑う。
プレゼントを買うなんて、苦手だ。
だって、相手が何がほしいなんてわからないし、
買ったところで、使ってもらえるなんて思えない。
なら、買う必要あるのかなって思ってしまう。
放課後、家に帰ろうとしたら、学科が違うからめったに合わないのに、
鶴神にあった。
「今日、音サー行く?」
「え、音サーってそんな毎日やってるんですか?」
「え。」
いまさらって顔された。
そら今更だけど。
「アコギ、一緒に弾こうよ。」
「・・・いいですけど。」
かっこいい人の頼みって断れない。
薄情な女だと思うけど、しょうがないとも思う。
部室につくと、すでに3人ほど、音楽を流して雑談していた。
本当に毎日やってるんだと、サークル3年目にして初めて知る。
「かおりん、こっちこっち。」
隅に置かれたアコギを二つ持ってくると、鶴神がチューニングを始める。
「やっべ、俺やっぱ絶対音感ねぇわー。
これ、久しぶりにもったけど、音ずれてない気がするんだけど。」
先輩が持つ少し埃かぶったアコギの弦は、さびていた。
「それ、さびてません?手傷めますよ。私、そっち弾きます。」
「いいってー。俺手大事にしてないし。」
「してください。」
「いいのー!」
頑として聞かない鶴神。面倒くさいので放置する。
ひとしきり二人で、アコギを弾いたり歌ったり楽しんだら、すでに部室には誰もいなく、外は暗くなっていた。
「やっべー、活動しすぎた。」
アコギをもどしながら鶴神は言う。
「やっぱり先輩、手怪我してるじゃないですか!」
鶴神の手が一瞬、赤く見えて、思わず、手をつかむ。
指先が赤くにじみ、血が出ていた。
「だから言ったのに~。」
鞄から消毒液と、絆創膏を取り出して、鶴神に手当てする。
「かおりん、消毒液とか持ち歩いてんの?」
「私、どんくさいから、よく怪我するんです。」
「あ・・そ。」
手当てが終わり、顔をあげると、至近距離に鶴神の顔があった。
あ、触れる。
そう思ったけど、自分の心臓は壊れているのか、かっこいい鶴神が目の前に、本当に目の前にいるのに高鳴ることはなく
「先輩、近いです。」
そういうと、立ち上がる。
「帰りません?」