voice

「私、アイツ好きなんだ」

伏せ目がちに麻美は言った。



「アイツ誰よ。」


「渡部太郎」




思いも寄らぬ名前に少したじろぐ。


休日昼下がり、行き交う人を見つめ、喫茶店で珈琲を飲んでいた。

「は、」



青春ですこと。
他人事のようにそう思う。

「で」

「で?」


ぱちんとはじける音が響く。
麻美が顔の前で手を合わせていた。


「ダブルデートシテクダサイ。」


「無理。」
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