ひだまりHoney
「ごめん、服が汚れそうだったから」
見れば、自分の座っていた椅子へと、ちょうどコーヒーの雫がぽたりと垂れた。
テーブルの上、それから床。
持っていたポケットティッシュと、室内にあった布巾で、美都里さんと桃宮さん達は茶色の液体と格闘している。
自分も何か手伝わなくちゃと思うのに、体と心がうまく働かない。
「紺野さん、あそこの手洗い場に布巾があと一枚有りますから、濡らしてきて」
「あぁ。分かった」
松戸さんの要求に頷いてから足下に転がっていた缶コーヒーを、紺野さんは掴み上げた。
そして温かな手が私の手に触れる。
そのまま持ち上げられ、私の手の平が上を向く。
微かに震え続けるそこに缶コーヒーを乗せ、紺野さんはそのまま私の横を通り過ぎていった。
私は動けなかった。
すれ違い様に、声が聞こえたのだ。
『そんな男、忘れろ』――と。