ひだまりHoney

携帯で誰かと話すその口ぶりは固かった。

通りすがりに、紺野さんが私を見た。反射的に頭を下げれば、彼もちょっとだけ頭を下げ口角を上げた。

『じゃあな』って声が聞こえた気がした。

足が止まった。胸元を抑えれば、空っぽだった心の中が、嬉しさで満たされていく。

紺野さんは電話を終えると、入り口に立っていた警備員へと声を掛けた。

「こ、ん、のさんっ!」

見計らったように、女性がどこからか走り寄ってきた。紺野さんの腕を逃がさないとばかりに掴んだ。

熊男ともめていたあの女性だ。ただし、熊を突き放そうとしていた時の面影は全くない。

「あっ、お疲れ様です」
「お疲れ様です!」

松戸さん達の姿もとっくに見えなくなっているし、他に女性が待っている様子もない。

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