ひだまりHoney
もう一度取り返そうとするが、男は私が奪い返そうとするその直前で、一歩後退した。
「かっ、返してください!」
鼻で笑われた。
「何なんだ、こいつは。人の女に手を出しやがって」
「何だって言われても……」
私の上司ですと言葉が出掛かった瞬間、時間が止まった。
紙が切り裂かれる音に、手が震える。
さらに細かく破かれ……気がつけば、私は男の腕を掴んでいた。
恐いとか、そんな感情は一切なかった。
これ以上紺野さんの名刺を破いてもらいたくなかった。
ただそれだけだった。
「止めてください!」
「離せ!」
「返してください!」
「離せって言ってんだろ!」
男に大きく腕を振り払われ、私はその場に尻餅をついた。