ひだまりHoney

平穏が戻ってくる。

どちらからともなく、私たちは一歩距離を置いた。

「振り」が終了すれば、ただの上司と部下なのだ。

最後に吐き捨てられた「バカ女」という一言が、私の心に突き刺さった。

紺野さんは頭を掻いて、目を細める。

「ごめん。ちょっとやり過ぎたかも……上田さん、事故起こさなきゃ良いけど」
「そ、そうですね」

熱くなった頬を掠めるように、気持ちの良い冷たい風が吹き抜けていった。

「帰るか」

紺野さんがそう呟いた瞬間、彼のスマホが鳴り出した。

鳴り止まぬメロディは、メールではなく電話の着信だと言うことを知らせる。

気だるそうにスマホを確認して、紺野さんは表情を強ばらせた。

「……あのさ」
「はい」
「もしかしたら俺……これから平加戸に迷惑掛けるかもしれない」
「え?」

鳴り響く音色をそのままに、彼は固い声音でそんな事を言った。

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