ひだまりHoney
紺野さんは寂しそうに笑った。
「もう大丈夫だよ。こっちにおいで、珠洲」
「……こ、こん、のさん」
ゆっくりと近付けば、紺野さんが羽織っていたウィンドブレーカーを脱いだ。
そっと腕を伸ばし、私にそれを掛けてくれた。
「珠洲」
私のために差し出されているその手に、触れたいと思った。
腕に力を込めたとき、紺野さんの向こうで黒い塊が横切ったように見えた。
「……うっ」
「珠洲?」
「そ、そこを。どい、て……下さい……一人で、降りれます」
ふらつきながら車を降り視線を漂わせたけれど、彼の後ろには心配そうな表情を浮かべる大田原さんしかいなかった。
希世さんの姿はなかった。
気持ち悪さが込み上げてきて、咄嗟に口を手で覆った。
上手く呼吸が出来なくなる。
世界が白ける。
もう限界だ。
「珠洲!?」
意識を手放す瞬間、私は手を伸ばした。
「こんの、さん」
指先が、焦がれた温もりを掠め……落ちていった。