ひだまりHoney
フロアは仕事を終えた人たちで賑やかだ。
そんな中を、紺野さんに向かってとぼとぼと歩いていく。
紐状の持ち手を掴む手にだけ、無駄な力が入った。
「紺野さん」
「はい? あっ、はい!」
椅子をのろりと回転させ振り返るやいなや、紺野さんは私を見て姿勢を正す。
驚きの表情から、微笑みへと変化していく彼の顔を見つめたまま、私は紙袋を差し出した。
「有り難う御座いました。返すの遅くなってしまってすみません」
「え?」
袋の中を覗き込んでから、紺野さんは「あぁ」と小さく呟いた。やっとウインドブレーカーが持ち主の元へとかえっていった。
「あの……」
――……希世さんで埋まってない自由時間ってありますか?
言葉を紡ごうとしたけれど、勇気が出なかった。ゆっくり口を閉じる。