ひだまりHoney
紺野さんが記憶を掘り起こしているかのように、遠くを見つめた。
「電車で痴漢に遭ってたとき、最初はどうしようって思った。最低かもしれないけど、誰かが助け船を出してくれれば良いって……でも、珠洲の泣きそうな顔を見たら自然と体が動いてた」
「……紺野さん」
「その後、晃が珠洲をプロジェクトに引き込んだ。晃が珠洲を気に入ってるなら、俺も晃の恋を応援するべきなんだと思った」
彼が弱々しく笑った。心がきゅっと苦しくなった。
「珠洲も簡単に晃に落ちると思った……でも違った。それどころか晃に怯えてるのを見て、正直びっくりした」
段々と彼らしい微笑みが戻ってくる。
そのことに、体の中のざわつきがいとも簡単に凪いでいく。
「晃を怖がるのに……紺野さんが良いって、珠洲は俺を選んでくれる。それが嬉しくて、気付いたら俺は珠洲を気になり始めてた。晃に珠洲を渡したくなかった」
温かな風を感じた。
穏やかになった気持ちの中に咲いた嬉しさという花を、優しく揺らしていく。
「初めて……誰かのペースに合わせたいと思った。勇弥のせいで男が恐くなったなら、その傷がいえるまでずっと、俺は珠洲に寄り添い続ける」