ひだまりHoney
大きく回り込むように、私は彼の胸元にあるだろうネームホルダーを見た。
でもそれは裏返しになっていた。
心の中でちっと舌打ちをし視線を上げると、彼と目が合った。
肩を大きく揺らした私に、彼は首を傾げる。
「何?」
「あの……いえ」
名前を教えて下さい。
それだけ言えば良いのに、声が出てこなかった。
到着したエレベーターに乗り込み、すぐに踵を返すと、私は足下へ視線を落とした。
これも、染みついてしまった行動パターンの一つだ。
何か嫌な予感がしたらすぐにボタンを押し、扉が開くと同時に変態を突き飛ばし逃げられるように、と。
目の前にある19階のボタンを押そうとしたけれど、それよりも早く彼の指先がボタンを捉えた。