ひだまりHoney
紺野さんは空いていた座席に座るとすぐに鞄から手帳を出して、何かを記入し始めた。
その横顔は、仕事をしている時と同じ顔だった。
上司であるし、側に行って挨拶くらいすべきだろうか。
そう思って一歩踏み出してみたものの……私はその足を元の位置に戻し、彼に背を向けた。
気付かなかったことにしてしまうという選択肢もあるのだ。
これは男性に対して、よく選んでしまう行動なのだけれど……気がつけば私は、口元を引き結んでいた。
自分の取った態度に対し、もやもやとした感情が心の中で渦を巻きはじめていたのだ。
電車が見慣れたホームに滑り込み、ぴたりと停止する。
ちらりと見れば、紺野さんが鞄の中へ慌てて手帳をしまいこみ、立ち上がったのが見えた。