丹後の国の天の川。
 その日の晩のことだった。
 隣のじいさまが腰を壊したので、島子は自分の分も漁をしてくれないか、と頼まれた。
「だめ。絶対いっちゃだめ」
「でもこれは仕事なんだ。頼まれたんだよ、わかってくれ」
「それじゃあ、私もいきたい…」
「眠くなるぞ、いいのか」
 いっても聞かないあずみのことを、わかっていたのであきらめ口調だった。
「うん、かまわないから連れてって」
 島子はいつものように小船を出した。
 漁の道具をそろえると、島子はあずみの手を引いて船にのせる。
「お姫様みたいで、いいわねぇ。王子さまに手を引かれてボートに乗るの。デートみたい。あっ、王子さまってあなたのことね」
「はは、なにいってんだか…。さあ、手伝ってくれ。仕事するぞ」
 漁火が揺らめいて、海面に映し出される。神秘的だが近づくと熱いので気をつけることにする。
「初めて見た。漁火ってこんな風になってるのね」
「珍しいかい」
「うん。それにちょっとロマンチックだしぃ。大好きな島子さんと夜のデートだなんて」      
 珍しかったのは島子の方で、その日に限ってあずみの言葉に耳も貸さず、今夜の島子は仕事に集中していた。
 
< 11 / 19 >

この作品をシェア

pagetop