丹後の国の天の川。
 あずみは夢を見た。
 それは、とても恐ろしい夢で、大きな鎌をもった骸骨が島子の首を狙い、背中から襲いかかろうとする夢である。
 島子は魚とりに夢中で気づかない、あずみは叫ぶが、島子に声は届かない。
 目が覚めたとき、射光がさしこみ、腕で日よけを作る。 
「あれ? 私、たしか松の樹で」
 島子の家だった。
 いつの間に戻ってきたのだろう。
 家の主人はあずみの起きたことを確認すると、冷淡な口ぶりでこういった。
「おはよう。朝ごはん食べるだろ」
 島子に向き合って箸を取る。
「あの、島子さん、怒ってる?」
「怒ってないよ」
「うそ。怒ってる。怖い顔だもん」
「怒ってないったら」
 あずみは箸をおき、島子の背中に抱きついた。
「お、おい、なにを…」
「ごめんなさい。もうどこにも行かないから、怒らないでいて。好き、愛してる」
 島子は箸を落っことし、硬直したままでいた。
「きょうは、私と、ここにいて。沖にいっちゃダメ。島子さん殺される」 
「こ、殺される? 誰にだい」
「大きな骸骨。きっと死神ね」 
「骸骨…」
 島子はため息をつくと、あずみの両手をはずし、自分と向かい合わせて座らせた。
「あのさ、あずみ…」
「わかってる、でも夢で見たの。怖い夢を。あなたはきっと、誰かに殺されてしまうんだわ」
「骸骨にかい。死体になにが出来るというんだ」
「バカにされてもいいから、それでも、今日だけは、いかないでいて」   
 懇願すると、あずみの泣き腫らした顔を両手で包み込み、島子はあきらめたように言うのだった。
「わかった、ぼくの負けだ。きょうだけは、ここできみと一緒にいることにしよう」
「うん…ありがと…」
 あずみは抱きしめられ、恍惚として自分からも島子に抱きついた。
「私を離さないでね。絶対離しちゃやだ」
「どのみち今日は離すつもりないけど。そういう約束だったからね」
 わざとらしく意地悪な言い方をする。
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