理想の恋愛関係
食事の後軽く飲んで、それから優斗君にタクシー乗り場まで送ってもらった。


「優斗君も乗っていかない?」


今日は荷物が多いし大変だろうと思いそう聞いてみたけれど、優斗君は断って来た。


「遠回りになるだろ? 俺はまだ電車が有るからいいよ」

「そう……」


友達になっても、優斗君はこういう所を遠慮する。


私としては一緒に帰りたかったけど仕方ない。


「じゃあ、また連絡するわ」


そう言ってタクシーに向かおうとしたところ呼び止められた。


「どうしたの?」


優斗君が私を引き留めるなんて珍しい。


意外に思っていると、優斗君は沢山持っていた手提げの中から一つを私に差し出して来た。


「これは緑さんに。早いけど明後日は会えないから」

「え……」


まさかホワイトデーのお返し?


自分の分が有るとは思ってなかったから驚いた。


「いいの?」


感激して優斗君を見つめると「緑さんもくれただろ?」と、あっさり言われた。


雰囲気的に義理だと分かるけど、それでも嬉し過ぎる。


「ありがとう。一生大事にするわ!」

「……焼き菓子なんだけど」

「え? ああ、うん。でも大事にする」

「そう……喜んで貰えて良かったよ」


優斗君は微妙な笑顔を浮かべながら言った。



「じゃあ、またね。ありがとう」


手を振りながらタクシーに乗り込むと、優斗君も珍しく手を振ってくれた。


タクシーが走り出すと、私は浮かれた気持ちのまま手提げの中を見た。


会社の子へのプレゼントと同じ店の物だった。


だけど……私にくれた物は一回り大きくて、他のみんなとは違っていた。


さり気なく特別扱いされている事実に、更に喜びが湧き上がって来る。


歌でも歌いたい気分だった。
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