理想の恋愛関係
翌日。


土曜日だったけれど、外せない打ち合わせと会食が入り、優斗は都内のTホテルに居た。


終わり次第、母親の入院している病院に行き医師と退院について話さなければいけない。


気疲れする日だと思いながら、表向きは笑顔を絶やさずに接待に努めた。


なんとか会食が終わり相手を見送ると、優斗はホッと息を吐いた。


「ちょっと、お茶飲んでから出ませんか?
今出たらまた顔を合わせそうだし」


共に対応していた優斗の部下……と言っても同年代で気安い存在の宮田が言った。


「ああ、そうだな」


ゆっくり歩きながら答えた優斗は、思いがけない光景を目にし無意識に足を止めた。


優斗の位置からは大分離れた窓際の席に座る緑の姿を見つけた。


兄の栖川昭と一緒で、艶やかな着物姿だった。


「……」


優斗が立ち尽くしていると、宮田が声をかけて来た。


「どうかしたんですか?」

「えっ? いや……」

「ああ、見合いしてるんですね。このホテル結構見かけますよね」

「……」

「もしかして知り合いですか?」

「いや……でも向こうに行こう」


優斗はそう言うと、緑の席とは反対方向に歩き始めた。
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