理想の恋愛関係

「ゆ、優斗君！」


声を上げ、大急ぎで優斗君の下に向かう。


「緑さん……今話していた人は……」


優斗君は戸惑いの表情を浮かべて言う。


「あっ、何でもないの。ちょっとした知り合いで……あの、やましい関係じゃないから」

「あ、そう……」


優斗君は何か言いたそうな様子を見せながらも、言葉を続ける事は無かった。


代わりに私の背後をじっと見つめている。


「優斗君？」


呼びかけたのとほぼ同時に、

「栖川さん」

いつの間にか近付いて来ていた袋小路さんの声が聞こえて来た。


袋小路さんは、汗ばんだ額を拭いながら笑顔で言った。


「栖川さん、食事なんですけど……」


まだその話をして来るのかと、私は驚き目を見開いた。


普通、この状況を見たら察してくれそうなものなのに。


よりによって優斗君の前で……私は袋小路さんに恨みの視線を送りながら、早口で言った。


「せっかくですが、お断りします。
大切な先約が有りますので」


空気を読め、早く帰れと目で訴える。


けれど、かなりの念を送ったはずなのに、彼には全く通用しなかった。


「以前、あんな別れ方をして後悔していたんです。
もう一度ちゃんと話し合いたいと思ってたんです」

「は？」

「見合いを一方的に断るなんて、女性に対して失礼だったと……」


え？

ちょっと待って。


話が飛んでいるし、何か内容もおかしい。


今の話だと私が袋小路さんに振られた感じが……しかも別れたって、最初から付き合ってすらいないのに。


袋小路さんの有り得ない妄想に、私は驚愕して言葉を失った。