理想の恋愛関係
「それじゃあ、俺はそろそろ帰るよ」


飲み会の途中、時計をチラリとと見ながら優斗が言うと、近くにいた同僚達が怪訝な顔をした。


「まだ来たばかりですよ? もう少しいいじゃないですか、明日は休みなんだし」

「いや、悪いけど今日はこれで失礼するよ。
皆はゆっくりしていくといい」


穏やかに言うと、優斗は立ち上がり店を出た。


大して年の変わらない社員達は気安く話しかけてくれるけど、それでも役職の違いから壁のようなものは有った。


自分が居ては、周りも気を使うだろうと思った。


まだ早い時間だけど真っ直ぐ家に帰るつもりだった。けれど、


「二ノ宮部長!」


慌てた様子の声で引き留められ、優斗は立ち止まり後ろを振り返った。


「……吉澤さん?」


皆と飲んでいたはずの留美が息を切らせて走り寄って来て、優斗の目の前で立ち止まった。


「何か有ったのか?」


これ程慌てて追って来たのだから、何か問題が発生したのではないかと思った。


けれど留美は苦しそうな息を鎮めると、ニコリと微笑んだ。


「そういう訳じゃないんですけど……二ノ宮部長と一緒に帰りたくて追いかけて来たんです」

「俺と?」


留美の言葉に、優斗は眉をひそめた。


留美の自宅は方向が違うはずだった。


一緒に帰ると言うのは口実で、何か相談でも有るのかもしれない。


「吉澤さん、何か困ってる事が有るんだったら話は聞くけど日を改めよう。今日は少し飲んでるし、ちゃんと話を聞けないと思うから」


穏やかな口調を心掛けて言うと、留美の表情が少し曇った。
< 239 / 375 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop