理想の恋愛関係
優斗が妙な感心をしながら見つめていると、緑は恐る恐るといった様子で口を開いた。


「あの……優斗君……」

「何?」


いつになく歯切れの悪い緑に、眉をひそめる。


「……あの、もしかして彼女と付き合ってるの?」

「……は?」


いきなり何を言い出すのかと思う。


再び呆れた気持ちになりながら緑を見る。


真剣な顔で返事を待っているようだった。


「……緑さんには関係無いだろ?」


違うと言っても良かったのに、なぜか素っ気ない返事をしていた。


自分でも不思議なくらい、緑に対してイライラしていた。

緑はショックを受けた様に顔をしかめた。


「そ、そうなんだけど……」


かなり動揺している様で、上手く言葉が出て来ないように見えた。


「緑さんも忙しそうだし、俺の事なんか気にしてる暇は無いだろ?」


意地が悪い言い方だと自覚しながらも、なぜか止められない。


すると、緑の顔が泣き出しそうに大きく歪んだ。


「え……緑さん?」


緑が実際に泣くとは思えなかったけれど、心臓がドキリと音を立てて跳ねた。


フォローの言葉を探していると、緑は顔を上げ勢いよく迫って来た。


「忙しくても優斗君の事を考えない時間は一秒も無いから!」

「い、一秒も?」


それはそれで怖い気がする。


引き気味の優斗に気付かずに、緑は必死の表情で続けた。


「確かに優斗君と彼女の付き合いに私は関係無いけど、でも気になるの! 気にしないなんて絶対に無理!」

「み、緑さん?」

「だって、私……優斗君の事が大好きなんだもの! 優斗君だって知ってるでしょう?!」


声を高くする緑と、優斗に周囲のギョッとした様な視線が集まる。


「……こっちに来て」


優斗は慌てて緑の腕を引き、人通りの少ない方向に進んで行った。
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