理想の恋愛関係
「いや、特に用は無いんだけどどうしてるかと思って。今度食事にでも行かないか?」


龍也は過去の事など完全に無かったかの様に、さらりと誘って来た。


一体どういうつもりなのだろう。


別れの原因になった、若い大学生の恋人はどうなったのだろう。


「緑? どうかしたのか?」


答えない私を不審に思ったのか、龍也が怪訝そうな声を出した。


「別に……悪いけど忙しいから、無理そうだわ」


そう答えて、さっさと電話を切ろうとした。


これ以上話していたら、龍也に怒りをぶつけてしまいそうだった。


別れの時、必死に保った冷静さが無駄になってしまうし、龍也に私が怒る理由を考えさせたくなかった。


「じゃあ、忙しいから切るわ」


「分かった、また連絡する。海外出張の土産も買ってきて有るんだ」


「……さようなら」


お土産の話には触れずに電話を切った。


短い通話だったのに、すっかり疲れ果てた気分で私は大きな溜息を吐いた。
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