理想の恋愛関係
こ、この声は……。


嫌な予感に身体が強張る。


優斗君が足を止めたので、私も立ち止まる事になる。


ああ、今すぐ優斗君を引っ張って駆けていきたい。


それか優斗君が私を連れてどこかに攫って欲しい。


そんな願いが叶う訳もなく、優斗君の動揺した声が聞こえて来た。


「栖川さん……」


……もう誤魔化しようがない。


様々な感情がこみ上げる中、ゆっくりと振り返った。


視線の先には、勢いよく近付いて来る兄。


その兄を小走りに追って来る茜さんの姿が有った。





「緑! こんな所で何をしてるんだ?!」


私は怒りも顕わに兄を睨み付けた。


何をしているかなんて見たら分かるだろうに、それをわざわざぶち壊しに来るなんて許せない!


「二人と同じ事だけど!」


茜さんに一瞬目を遣りながら言うと、兄は顔を強ばらせた。


「同じってお前……」


兄はヤケに動揺した様で、手がプルプルと震えている。


……何でここまで興奮しているのか。


不審に思ったけれど、すぐにここがホテルだと言う事に気が付いた。


もしかしたら兄達は今日は泊まりなのかもしれない。


意外にやる事やってるんだと思いながら、嫌みったらしく言った。


「食事に来たのがそんなにいけない事? それとも二人は違う目的で来たの?」

「……!」


予想は当たった様で、兄はかなり気まずそうな顔になった。


この勢いで追い払おう!


そう思い畳みかけようとしたんだけれど、

「緑さん、待って」


なぜか優斗君に止められてしまった。
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