理想の恋愛関係
「緑さん、どうかした?」


夜景が良く見える窓際の席で、優斗君は優しく微笑みながら言った。


「あっ、何でも無いの。ただ、綺麗な眺めだなって」


まさか、部屋に行って泊まる気満々だったとは言えない。


今、勘違いに気付いて複雑な気持ちでいるなんて、さすがに恥ずかし過ぎて。


優斗君は疑う事なく頷いた。


「この前は景色を楽しむ余裕は無かったからね」


確かに……あの時は兄の事で気が気じゃ無かったし。


ようやくこのロマンチックレストランを堪能出来てはいる。


優斗君も今日は前回と違って柔らかな表情で、煌めく夜景を見つめている。


キャンドルの灯りに照らされた優斗君は、いつもより素敵に見える。


つい見とれていると視線に気付いたのか、優斗君が私の方を向いて来て言った。


「緑さん、長い間待たせてごめん。付き合った途端に距離を置くのは良くないと思ったけど、どうしても栖川さんと和解したかったんだ」

優斗君の申し訳無さそうな様子に、私は慌てて答えた。


「あっ、いいの! 私は大丈夫だし、こうして今日会えたんだから」

「……本当に? 思ったより栖川さんの説得に時間がかかったから心配だったんだ。
でも緑さんはやっぱり強いな、ホッとしたよ」


優斗君は安心した様に言い、ワイングラスに手を伸ばした。


その様子を少し寂しい気持ちで見つめた。


私は強くなんかない。


本当は寂しくて、毎日辛かった。


でもそんな事言ったら優斗君の負担になるだろうから言い出し辛い。


せっかく、和やかな雰囲気なんだし。


過ぎた事を言うより、未来の事を話さなくては。


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