理想の恋愛関係
「さ、食べて」


綺麗に巻いた太巻きを皿に取って渡すと、優斗君は頂きますと言い口に運んだ。


「こうやって外で食べるのも、気持ちいいわね」


明るい口調で言うと、優斗君は珍しく僅かな笑顔を見せた。けれど、


「以前はよくこうして外で食べたんだけどな……苦手な料理、頑張ってたな……」


過去を思い出すようなその言葉に、私はもう何度目か分からないショックを受けた。

優斗君が今誰を思い出しているのか、聞かなくても分かった。


頭の中は、何と引き換えにしても失いたくなかった彼女の事でいっぱいなんだろう。


そう考えると辛い気持ちになった。


私は彼女の事は何も知らない。


名前も年も、優斗君といつから付き合っていたのかも。


だから私の頭の中で彼女は勝手に作られていく。


男の人にここまで大切に愛されるのだから、本当に素晴らしい女性に違いないだろう。


美しくて、性格も良くて……きっと優斗君の理想の女性なんだろうって。


そんな完璧な彼女にも、今、欠点が有る事が分かった。


料理は苦手。


家庭的な女性だと思っていたから意外だった。


きっと料理は私の方が上手く出来る。

だけど今、私は敗北感でいっぱいだった。


料理の苦手な彼女を思い出す優斗君の顔を見ていると、そんな彼女の欠点すらも愛しく思っていたんだと分かってしまったから。
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