理想の恋愛関係
「緑さん?」


その声を聞いた瞬間、悲しみや不安は一気に怒りへ変わっていった。


事故に巻き込まれてたらどうしようって心配して、完全に嫌われてたんだと落ち込んで……しかも飲まず食わずで二時間も立ったままで……もう寒い時期だっていうのに!


「今日、食事に行こうって約束してたじゃない!」

「えっ?!」


驚愕したようなその声で、やっぱり忘れられてたんだと確信した。


「7時に待ち合わせの約束だったのに優斗君来ないから何度も電話したのに繋がらないし……私との約束忘れて何してたの?」

「それは……」


まくし立てると、優斗君は言葉を濁した。


私には聞かせられない事なんだろうか。


苛立ちが収まらなくて、更に文句を言おうとするより早く、

「……すみません、母の病院に行っていたので電源を切っていました」

優斗君のはっきりした声が聞こえて来た。


「え……」


……母の病院?


以前、二ノ宮家の屋敷で会った優斗君のお母さんを思い出した。


大人しい、不思議な雰囲気の……優斗君の家族は今お母さんしかいないはずだった。


そのお母さんに何か有ったのだろうか。


「病院って……お母様に何かあったの?」


心配になりそう聞いたけれど、優斗君は詳しい事情を言う事は無くいつもより少しだけ柔らかな声で言った。


「本当にすみませんでした。この埋め合わせは今度必ずします」
< 75 / 375 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop