明日の果て

*記憶の底


 出来れば思い出したいけれど、思い出そうとする度にモヤがかかったように記憶がかすれる。

 バイトが休みの今日は、特にすることもなく街を歩いていた。

 ふと映画館が見えて滑り込んだ──タイトルからしてB級のホラー映画っぽかったが、構わずにチケットを購入してぼんやりと眺めた。

 記憶を無くしている間に何があったんだろう……と、スクリーンに映る血しぶきを見つめる。

 ホラーなんて何級だろうと無理だったのに、今は平気で見ている。

 好みについても変わっていた。

 栗毛の女性が好きだったのに、どういう訳か今は黒髪に惹かれている。

 それも、腰までの長い髪だ。

 今時は手を加えていない髪なんて少ない。

 探してもいないのに目は自然と黒髪を見つけて追ってしまう。

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