明日の果て
「デイって黒が好きなの?」

「ジェティスの話じゃなかったのか。それより、宿題は出来たんだろうな」

 剛はギクリとした。

 実は先日、英語を覚えるようにと彼女から翻訳の宿題を出されたのだ。

 童話集のような薄い本なのだが、言葉遊び的な内容のために、かえって難しい。
「ううーん……」

 本を片手に頭を抱えている剛を見て、デイトリアは「やれやれ」と小さく溜息を吐き出す。

「全て1人でやれとは言うとらん。わからないヶ所あれば聞けばいい。すぐに理解できるほど言葉は単純ではない。訊く事は恥ではないのだから」

「そりゃあ、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥って言うけどさ。訊いてもいいなんて思わなかったよ」

 こんな風に喋れるようになれたのは、あれから一週間経つからだ。

 人間じゃないと知っているせいか、剛はどうしても警戒を解く事ができなかった。

 しかし、当のデイトリア本人は至って普通に生活しているときた。
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